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仙台高等裁判所 昭和49年(行コ)2号 判決 1975年12月18日

控訴人(原告) 菅原光太郎

被控訴人(被告) 仙台北税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和四四年四月二四日付でした控訴人の昭和四一年分の所得税の修正申告に対する更正の請求を却下する旨の決定はこれを取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めめ、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次に記載するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(控訴人の主張)

一、控訴人は、昭和四三年一一月二八日、昭和四一年分の修正申告当時、担当官から偽造の約束手形であつても振出人および裏書人に対して請求ができる旨の説明を受け、かつ、その以前である同年一〇月頃仙台木材市場株式会社の役員清野から阿部惣十郎を通じ訴訟上の請求があれば右手形金を支払うとの話があつたので、右手形金を回収できるものと信じていた。しかるに、同年一二月中旬頃に至り、仙台地方検察庁検察官から右手形の偽造部分は法律上没収されるものである旨告げられてはじめて右手形金三、三〇〇万円が回収不能であることが判明したのである。従つて、右の事由は、右修正申告以後生じた後発的事由であるから、所得税法一五二条の更正請求の要件を充足している。

二、控訴人は、昭和四一年度をもつて営業(金融業)を廃止したのであるが、右修正申告書提出後二箇月以内である昭和四三年一二月中旬頃右手形金が回収不能であることが判明し、これが昭和四二年分の損失として計上されることになると同年分以降の所得が少ないためその確定申告により還付を受ける金額が過少となる。右は所得税法一五三条の更正請求の要件を充足している。

三、本件更正請求書の記載だけからみても、右更正の請求は、国税通則法二三条一項の特例にあたる所得税法一五二条、一五三条に基づくものであることを推認しうるのであり、右更正請求の期限まで、なお一箇月の余裕があつたのであるから、被控訴人としては、同法条の特例事項の記載もれなどの不備があれば補充させるなど適切な行政指導を行うべきであつた。

(被控訴人の主張)

一、控訴人が昭和四三年一一月二八日昭和四一年分の修正申告をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

二、控訴人は、本件更正請求書において、「手形金三、三〇〇万円の損失は、昭和四一年分の所得計算上必要経費に算入すべきものであるところ、前記修正申告書には同年分の必要経費として算入していない」旨を理由とするのみで、所得税法一五二条、一五三条の更正の請求であることを示す「申告に係る課税標準等又は税額等、その更正の請求をする理由、当該請求をするに至つた事情その他参考となるべき事項」および「当該事実を生じた日」の記載をしなかつた。従つて、同法条の特例に該当する旨の記載のない以上、国税通則法に基づく更正の請求と解するのは当然のことである。

(証拠関係)<省略>

理由

一、当裁判所も、控訴人の本件更正の請求は、所得税法一五二条、一五三条に基づく更正請求とみることはできないものであり、しかも国税通則法二三条一項所定の提出期限経過後に提出されたものとみるべきであつて、本件処分には控訴人主張のような違法はないものと判断する。その理由は、次のように付加訂正するほかは原判決の説示するとおりであるから、その理由記載をここに引用する。

(一)  原判決七枚目裏八行目に「はもとより」とあるのを「、特に所得税法一五二条の場合には」と改める。

(二)  同八枚目表末行に「特例事項」とあるのを「特例として記載すべきことを要求されている前記項目全部について」と改める。

(三)  同裏八、九行目に「相当であつて、」とあるのを「相当であり、同法条に基づく所得税の更正請求の期限は所得税確定申告期限(本件の場合昭和四二年三月一五日)から二箇月以内とされていたところ、前掲乙第一号証によれば本件更正請求書が提出されたのは昭和四三年一二月二九日であつて、右提出期限以後であることが明らかであるから、」と改める。

(四)  右に述べたように、控訴人の提出した本件更正請求書は、国税通則法二三条一項に基づく更正の請求とみるべきで、所得税法一五二条、一五三条に基づく更正請求とみる余地のないものである以上、控訴人の当審における前記一ないし三の主張はいずれも失当であつて採用できないものである。

二、よつて、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべく、右と同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから棄却することとし、民訴法三八四条、九五条、八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤幸太郎 田坂友男 佐々木泉)

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